東京高等裁判所 昭和26年(ナ)43号 判決
原告 小林一 外二名
被告 千葉県選挙管理委員会
一、主 文
原告等の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等代理人は昭和二十六年四月二十三日行われた船橋市長並に船橋市議会議員の選挙は無効とする。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告等はいずれも千葉県船橋市における選挙人であるところ、昭和二十六年四月二十三日同市において行われた市長及び市議会議員の選挙につき、有権者総数は四万四千九百六十五名、投票総数は三万七千七百三十六票、そのうち不在者投票数六百七十二票のところ、市長選挙につき高木良雄は二万三千三百五十票、青木泰助は一万二千五百五十三票の得点があり、高木良雄が市長に当選し市議会議員の選挙については、各候補者の得票数及び当選落選は別紙目録記載の如くであつた。しかしがら右不在投票六百七十二票の内二百票以上についてその権利が不正に行使されている。これは選挙管理者の管理方法が選挙の規定に違反してなされたことに帰する。即ち、
(一) 公職選挙法施行令第五十条は投票用紙及び投票用封筒の請求方法を規定するに拘らず、この規定に違反して市長又は市議会議員の候補者乃至その運動員の求によつてこれを交付し、
(二) 同施行令第五十二条によれば不在者投票をなさんとする選挙人は不在者投票の事由に該当する旨の証明書を提出することを要するに拘らず、証明書とは名のみにて全然事由記載なきに等しい証明書、病名のない証明書、単に病気と記載した証明書、医師の作成したものと認め難い証明書、医師が診断しないで作成した証明書を徴し同選挙人に投票用紙及び封筒を交付している。
(三) 同施行令第五十八条によれば不在者投票をなさんとする選挙人はその投票を郵便または同居の親族によつて提出することを要するに拘らず、この規定に違反して第三者をして持参せしめた投票もこれを受理している。
(四) 不在者投票をなした選挙人の投票はこれを一定の場所に保管しその散逸入替を防ぐ方法を講ずべきであるに拘らず、これを書記の机の抽斗に入れ鍵もかけないで放置しその安全を害した。これらの選挙の規定に違背する処置は本件選挙の結果に異動を及ぼすべきのものであるから原告等は右選挙の効力に関し千葉県船橋市選挙管理委員会に異議を申し立てたが却下され、次で千葉県選挙管理委員会に訴願をなしたが同年八月二十六日棄却され、その裁決書は同月二十九日原告等に送達されたから本訴に及ぶと述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は、原告等の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告等主張の選挙の管理に関し原告等主張の如き違法の措置のあつた事実はこれを否認する。その余の事実は総て認めると述べた。(証拠省略)
三、理 由
原告等が千葉県船橋市における選挙人であること、昭和二十六年四月二十三日同市において市長並に市議会議員の選挙が行われ、その選挙における有権者総数、投票総数、不在者投票数、各候補の得票数がそれぞれ原告等主張の如くであることは当事者間に争がない。原告等は不在者投票中二百票以上につき選挙に関する規定に違背してなされたもので選挙の結果に異動を及ぼす虞がある旨を主張するけれども、その提出援用に係る証拠によつては到底右事実を認めることができない。尤も証人渡辺敏の供述によれば同人外六名の医師が不在者投票に要する証明書に関し医師法違反に問われ内二名が罰金刑に処せられ他の五名が不起訴処分を受けたことを認めることができるけれども、これ等の証明書は不在者投票中十数票に関するものであることは右証人の供述によるも明であるから、たとえ不在者投票中からこれを除外しても選挙の結果には異動を生ずる虞がないものと認めるのが相当である。蓋し選挙の結果に異動を及ぼす虞ありといゝ得るためには選挙の管理執行に関して選挙全体の結果に異動を及ぼす程度に重大なる違反行為あることを要するからである。而して他に本件選挙の管理執行上違法の存することについては何等の立証がないから右の選挙の無効を主張する原告等の本訴請求は理由がない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決をする。
(裁判官 松田二郎 岡崎隆 奥野利一)
(目録省略)